ニコライ•リョーリフ。 『深さよりも深い』
1924年
89,0 х 116,6 cm
キャンバス上のテンペラ画
。。。沈黙の蒼いヒマラヤの夜。
絵の大部分を占める、青とは対照的に暗い山々。絵の枠組を越えるかのような勢いで、丸みを帯びた岩石が何処か高いところへと向かっている。洞窟への坑道は開かれており、高い石垣の開口部には人が立つ。
誰もを魅了する不思議な光。誰も知らない地下坑道の奥に光る輝きは、洞窟から溢れ、その光りはこの凍ったアーチを眩い青に染める。そこで反射した光は岩棚と凸凹とした暗い石に落ちる。。。
「深さよりも深い」この絵は「彼の国」のシリーズの中でも、最も謎めいた作品である。
洞窟の入口に立つ人物は一体誰なのだろうか?この坑道は、私たちをどこへ導くのだろうか?山々の奥に驚くべき宝が隠されているという伝説のカンチェンジュンガの聖なる尾根へか?または、秘密のエベレストの峡谷へ、または、夜の青さの中奇怪に切り立った崖がそびえ立つ所へか?
実際この洞窟は、右上に描かれた山々へと続いているのだろう。
この洞窟の謎めいた光の源は、奥の山々をも照らしているのだろうか?
中央アジア遠征(1924-1928)より以前、未来のためにと隠された石の扉の後方に眠る聖宝について、埋もれた宝と不思議なダンジョンについて、潜んだ部族と水没した都市について、地下に住む偉大な聖民族の居場所や王国について、それらのアイデアは既にニコライ・リョーリフの芸術の中に出現していた。
そして雄大なヒマラヤを背景にするシッキムの、「保護され、保存されてきた伝説」は、画家が自分自身のためにアジアの神秘的なシャンバラの言葉でまとめた。
ニコライ・リョーリフは次のように記録した。
人間の世界では、歌やその不思議な国についての伝説が溢れていた。ここは天と地を繋ぐ地球上では唯一無二の場所である。これは聖なる知識を保存する所であり、神々の力を持って人類を助ける賢者らによって守られた国である。賢者らのアシュラムは人里離れた場所にあり、召呼がなければ誰もその場所にたどり着くことはできない。
一世紀に一人、稀に二人が聖なる場所へと許されることがある。
伝説と現実がシャンバラの奥深くのコンセプトで密接に関係しており、守られた国シャンバラと人々の新しく輝かしい人生の夢や希望は繋がりを持っている。
ニコライ・リョーリフが残した日記の中の記述にある通り、アジアの山に位置するシャンバラについての言霊は素晴らしい未来の象徴のように感じられる。画家がシッキムを「未来の秘密への入り口」と呼んだのは偶然ではないと思っている。
シャンバラの教えが人に隠された最高の能力を引き出し、宇宙のエネルギーと繋がる可能性を生み出す。
このコンセプトは、1920~30年代にエレーナ・リョーリフによって記録され、『生きる倫理』の哲学として体系化された。
「シャンバラの実体は人類にとって最良の一歩を生み出す源であることを人々が知っていれば…! 宇宙は待っています!」
と、『生きる倫理』の中で述べられている。
。。。そして何の、決まった期間までに山々に深く隠された、お伽話の宝について古代の伝説が述べていたのか?金なのか、 ダイヤモンドなのか? 或いはルビーなのか?
「いいえ。古代東洋は他の宝、つまり『精神の宝』を大切にしてる。」
と、ニコライ•リョーリフは書き残し、また、
「古代の予言は実現します。」
と、崇高なラマの言葉も記録している。
「シャンバラの時が来た。」
今、伝説やお伽話の色とりどりの幕を少しづつ上げるための時が来た。宇宙の進化において最も重要な役割を果たすシャンバラの現れについて告げるための時が来た。その現れこそ、すべての求道者を導く星、人類が目指す礎、そして人道の光である。
。。。この作中の地下王国の厳格な番人は、大切な入口の守護者として不動の石の様に佇んでいる。
高さのある岩の入口には、光と影の境目に人の輪郭が描かれている。人の背後には果てのない夜。視線の先には、名も知れぬ深さへと誘う神秘的な輝き。。。
画家は、絵画の中で起こっていることの荘厳さと秘密の感覚を伝えていた。
そしてこれらを敏感に感じることが出来る観覧者はこの大神秘に触れながら、奇跡的な「シャンバラ」という伝説や現実が一つになれる世界と現実との境界で立ち竦むだろう。
ロシア語からの翻訳者:
オレクサンドル・チスチャコフ
翻訳補助:
加藤 はる花