ニコライ•リョーリフ。三連祭壇画 『Fiat Rex!王様 万歳!』
1931年
119,5 х 91,5 cm
キャンバス上のテンペラ画
1931年に描いた「Fiat Rex! 王様 万歳!」という三連祭壇画は、人類の大師の一人と、生きる倫理の創造者の為に存在する。ニコライ•リョーリフの存命中、三連祭壇画はナガールのリョーリフの家に残されたまま、展示会に出品されることは一度もなかった。
1948年1月、エレーナ•リョーリフはナガールからこの絵を持ち出し、デリー、カンダル、そしてカリンポンへと転居を繰り返した。1955年10月にエレーナ•リョーリフが亡くなった後、スヴャトスラフ•リョーリフはこの絵画を自分のバンガロールにある「タツグニエスタテ」という屋敷へと移した。
その作品には精神の姿(オーラ)についてのニコライ•リョーリフの考え方が明白に体現されていた。
オーラは通常目に見えず、特別な人のエネルギーによって作られた磁場のようなものである。人体を取り巻くものは「目に見えない」ものであり、いつの時代でも特に敏感な人にだけ見ることが出来た。しかし科学者らは、20世紀の終わりまでにその殻の存在を確認した。
オーラは写真のようにそっくりそのまま、その人の体調や精神、そして心理的な様子や考えを映し出してしまう。考えや思いが崇高なほど、美しいほど、精神が強ければ強いほどそれらが投映され、オーラの形はより完璧に、色差しもより美しくなる。
三連祭壇画の中央に描かれている教師は、紅玉色の火花に滲んだ美しい青い輝きに囲まれ、頭上には聖人らしくの黄金のハローを纏っている。王冠や肩からは明るい光線が放たれ、異常に高いエネルギーレベルと精神レベルを証明している。これはインドでは”マハートマー”の印とされている。
三連祭壇画の左側と右側に描かれた男性と女性のオーラには、穏やかな明るい色調が広がり、人物の気高さや内面の調和、そして感情的なバランスを証明している。
ニコライ•リョーリフは、実在の歴史上の人物である11世紀のドイツに生きた辺境伯エッケハルト2世と、彼の妻、辺境伯ウタを描いた。
彼らの彫刻は、13世紀に制作されたナウムブルクの他の12人の創設者の像とともに、街のピーターとポールのゴシック様式の大聖堂を飾っている。
歴史的年代記は私達に殆ど何ももたらさない。ただ1031年から1046年までにマイセン辺境伯を統治したエクハルトは、王に忠実で勇敢な戦士として描写されていた。
ウタについて唯一知られている事は、彼女はバレンステッドトのアスカンナー氏族の出身で、修道院で育ち、当時の優れた教育を受けとっていたということである。
彼女のイメージは、女性らしさや尊厳、そして脆弱性や内なる強さの具現化となっていた。
ニコライ•リョーリフの三連祭壇画では、中世ドイツに住んでいた高貴な町民と東の賢者の距離が近くに描かれている。それは非常に珍しいことであるが、どんな見えない絆が三人を結んでいたのだろうか。誰がこの三人の絆を知っていただろうか。
三連祭壇画「Fiat Rex」には、絵画の奥に多くの謎や隠されたシンボルが潜んでいる。
このように、宇宙のヒエラルホーと地球上の弟子達を描くことで、芸術家は生きる倫理の認識システムの最も重要な規定の1つが「教師ー弟子」という関係であることを明らかにしている。そのおかげで人の自己改善と精神的な上昇が可能になった。
※ヒエラルホー:ヒエラルキーの上に立つ存在
リュドミラ・シャポシュニコワ:
「この宇宙進化の指針となる原則は、決して新しいものではありません。それは大昔から東洋の哲学や文化で現れていました。生きる倫理の方法論では、進化の過程における学習と認識の宇宙原理として大宇宙規模にまで拡張され、その原理がなければどんな人類の進歩も不可能になります。古代だと、大師とは神話の中の文化的英雄ですが、現代の知識的理論においては、大師は進化のプロセスに影響を与える宇宙のヒエラルホーのうちの一人です。そのヒエラルキーの鎖が「教師ー弟子」の繋がりによって多数結ばれ、無限へと向かいます。その「教師ー弟子」の鎖が、二面性の法則によって天と地を連続的に繋いでいます。そして宇宙の全ては「天と地」が持つ二面性のように、物質にも厚い部分や薄い部分があるはずです。」
三連祭壇画にあるウタやエッケハルトの肖像画も、男女の平等の法則が反映された作品である。男女平等の原則は、お互いを補完するように創造されており、協力と共創において与えられた機会を実現している。インドの哲学者ヴィヴェーカーナンダは、「人間の精神の鳥は、一羽では飛びかねる。」と、発言した。
エッケハルトは前進するエネルギーの現れと、精神の進化の中でもたらされた成果物の保護を象徴し、剣と盾を手にしている。
ウタの手にある火は、囲炉裏の番人という伝統的な役割を彷彿させるよりも、精神の火の番人を表現しているように思える。
“ニコライ•リョーリフの創造性”を研究している研究者は最近まで、教師は手に枕と明るい石を持ち、それは人類で最も価値のある代表者だけが所有できる「世の宝物」という神宝であると考えていたが、1937年5月10日付のエレーナ•リョーリフが出した手紙には、”大師が持つ王冠について”という記述があった。
「ダイヤモンドが1つ付いた輪は、シャンバラの同胞団とそのリーダーのシンボルです。」
と彼女は三連祭壇画について書き残した。
「この輪は、高い精神の持ち主の頭上に見ることができる輪です。」
そして、三連祭壇画の中央には光のヒエラルキーのリーダーが描かれている。
ニコライ•リョーリフの他の多くの作品と同様に、三連祭壇画でも生きる倫理に定められた真実の「比喩的な表現」を確認することが出来る。そして1931年に「ヒエラルキー」という本が執筆されたことは偶然ではないとのことである。エレーナ・リョーリフ自身が認めたように、彼女が書いた本の中で「ヒエラルキー」は最も愛された教えの本である。
「...(省略) ヒエラルキー。全てを導く源は、私達の進化だけではなく、全体の存在を含む。至高の存在らが私達を実際に育て、それらの放射が私達を成長させています。」 - エレーナ・リョーリフ
ロシア語からの翻訳者:
オレクサンドル・チスチャコフ
翻訳補助:
加藤 はる花