ニコライ•リョーリフ。『イエス・キリストと砂漠』
1933年
60,9 х 50,9 cm
キャンバス上のテンペラ画
絵画『イエス・キリストと砂漠』は人類の大教師、イエス・キリストに捧げられたものである。
ニコライ・リョーリフは福音の物語の理解を更に深めるために、様々な年に繰り返しその内容を作品にしてきた。
イエス・キリストは木のない不毛な山中に描かれている。青く尖った峰は高くそびえ立ち、深いターコイズ色の空を突き刺しているかのようだ。山の境界線は、天上の世界と地上の世界を分けているように見えるが、そこにキリストが現れ、「神の子、人の子」という名前のもと両方の世界を統合した。
福音によると、イエス・キリストは砂漠での孤立の中で、闇の力に出会った。絵画においてそれは、右下に描かれた怪物によって象徴される。それは人間の無知、恐怖、怒りの産物であり、闇の務めとしてイエス・キリストを惑わせ、威嚇しようとするものであり、恐ろしい姿である。
それでもイエス・キリストは、全ての恐怖や疑い、肉体的困難を超越し揺るぎない意志と姿を貫いている。穏やかで落ち着きがあり、混乱せず、澄んだ表情をしている。高次の世界から地上に送られた神の叡智や愛に満ちたキリストはこの世のあらゆる誘惑に打ち勝ち、高い志に伴う試練や苦難を受け入れた。彼は、人々の意識を最高のものへと導き、精神の宝への扉を開いた。キリストは、倫理的な戒めを完全に実行する実例となることで、イエス・キリストは闇の上に光の勝利を確立した。
「彼はしっかりと歩んだ」
と、生きる倫理の教えの中でキリストについて記している。
「彼は心の中でこの偉業を決心した。その偉業はすでに予見されていたが、それを疑いもせず、後悔することもなく、心から受け入れなければならなかった。」
絵の中の殆ど透き通ったキリストの姿は白黄金の光に輝き、その光は周囲の青緑色の空間との明るいコントラストをなしている。
『荒野の誘惑』(1933年)、『地獄への降下』(1933年)、『イッサと巨人の頭』(1932年、ニコライ・リョーリフ博物館、ニューヨーク)
『イッサ』(1939年)等他の作品においては、画家は救世主の頭上のハローだけを再現していたのに対し、この作品『キリストと砂漠』ではキリストから世界へと向かう光の流れを描いた。
その光は山の近くや遠くの岩棚にまで届き、小さな結晶が様々な色合いに光り輝き、それはまるでこの世のものとは思えないほどのものである。
そのような芸術的な解決策は、他の多くの絵画における巨匠の作品とは区別される。:
このキリストの姿は特別な荘厳さや気高さを表現し、深く心に寄り添うものになった。ニコライ・リョーリフはイエス・キリストを精神の王として、また、宇宙引力、コスモス或いは精神の中心として描こうとした。その中心は、全ての進化に対応した創造的なエネルギーを集め、人々にもたらし彼らの創造力を呼び起こす。構想的には、画家は光り輝くキリストの姿を厳密に垂直に配置し、顔を作品の中心、2つの対角線の交点に配置することでそれを強調した。
ここでニコライ・リョーリフは象徴的な形で大師の多大な精神力についてのアイデアを表していた。このエネルギーは地上の物質が輝くよう変化を促したり、人類の宇宙進化に対する奥深い意味を持つ。絵画では、キリストの姿は無限の宇宙の深みからこの世を照らし、遠い世界の明るい星のように見る人に現れる。
ロシア語からの翻訳者:
オレクサンドル・チスチャコフ
翻訳補助:
加藤 はる花